ゆかりさんと学ぶ心の科学入門 その1 論理的推論
上記リンクで動画本編に飛べます。
動画を視聴されている皆様、あるいは何となくここへたどり着いた皆様、
お世話になっております、自室が寒くて白い手袋(交通整理の人がつけてるやつ)を着用してるのですが、
キーボードが打ちにくくて仕方ないです、Alias(エイリアス)です。
この記事ではゆかりさんと学ぶこころの科学の補足というより、振り返りを行っていきます。
その1では心理学における重要な考え方について話していました。
「論理的推論」これは文字通り、論理学(哲学)の分野の内容であり、心理学と直接関係のある問題ではありません。
しかしながら、密接な関係がある分野ではあると思いますので、しっかりと解説を行っていく次第です
尚、動画を見ながらでないと理解が難しい場合がありますので、適宜動画をご覧ください。
論理的推論とは何か
論理的な推論では「演繹」、「帰納」、「仮説形成」という三つの柱が重要となる。
帰納法や演繹法などという表記のほうが一般的ともいえます。
また、【前提条件】、【結論】、
「『前提条件』において『結論』が成り立つ」という【規則】
の三つがこの推論では重要な役割を果たします。
ウェイソンの選択課題を例に一つずつ紐解いていくことにしましょう。
動画で用いられたスライドがこちら
【前提条件】はこの課題においては、
「片方にローマ字の母音が書かれている」ことであり
【結論】は
「裏面の数字は偶数である」ことであり
【規則】は
「片方にローマ字の母音が書かれていれば裏面の数字は偶数である」ことが成り立つことである。
演繹的推論とは
ウェイソン選択課題では以下のようになります。
「片方にローマ字の母音が書かれていれば裏面の数字は偶数である」
↓
「片方にローマ字の母音が書かれている」
↓
よって「裏面の数字は偶数である」
帰納的推論とは
帰納という考え方は【規則】を【前提条件】により生じた【結果】から導くという考え方です。
ウェイソン選択課題では以下のようになります。
「片方にローマ字の母音が書かれている」とき「裏面の数字は偶数である」
↓
よって「片方にローマ字の母音が書かれていれば裏面の数字は偶数である」
仮説的推論とは
仮説形成という考え方は【前提条件】を【結論】と【規則】から導くという考え方である。
ウェイソン選択課題では以下のようになります。
「裏面の数字は偶数である」
↓
↓
「片方にローマ字の母音が書かれていれば裏面の数字は偶数である」
↓
よって「片方にローマ字の母音が書かれている」
さて、この三つの考え方で一つだけこの問題の答えにたどり着けない考え方が存在する。
仮説的推論(と便宜上呼んでいる)を行った場合、
「私はインフルエンザにかかると咳がでる」
↓
「私は今咳が出ている」
↓
「よって私はインフルエンザである」
という考え方がまかり通ってしまうわけです。
これを「後件肯定」といい、論理学の世界では「形式的な誤謬(瑕疵)がある」といえる。
簡単に言えば、「その考え方は間違っている」です。
演繹や帰納は証明に近しい内容であるが、あくまで仮説的推論は仮説(推測)でしかない、
つまり、その前提条件では場合によって真実に近づけないわけですね。
というより、文字通り、「考え方を間違っている」だけなのですが、それはまた後半で説明します。
というより、文字通り、「考え方を間違っている」だけなのですが、それはまた後半で説明します。
ウェイソン選択課題に必要な思考方略
それでは結局この課題を説くためにはどういう考え方を「頭に入れておく」必要があるか?
という話に進みましょう。
この考え方を「頭に入れておく」ことは、日常生活でも役に立つと思います。
ちなみに詳しい方のために最初に述べておきますけど、
この文章に出てくる「書かれていれば(ならば)」は数学で言われるようなA→B(AならばB)とは話が違うので注意されたし。
本稿においては「モーダスポネンス(前件肯定)」並びに「モーダストレンス(後件否定)」という二つの柱となる考え方を紹介します。
モーダスポネンス(前件肯定)とは
AならばBである。
↓
Aである。
↓
したがってBである。
このように肯定によって肯定するような形式をモーダスポネンス(前件肯定)という。
これがもしも先ほどの「後件肯定」だと
AならばBである。
↓
Bである。
↓
したがってAである。
という誤った考え方になってしまう。
(わからない場合は先ほどのインフルエンザの例を読み直してみましょう。)
モーダストレンス(後件否定)とは
AならばBである。
↓
Bでない。
↓
よってAではない。
このように否定によって肯定するような形式をモーダストレンス(後件否定)という。
今まで出てきていない「前件否定」という考え方は
AならばBである。
↓
Aでない。
↓
よってBではない。
という考え方になってしまい、やはり誤った考え方になる。
結果として、
「前件肯定」、「後件否定」の原則を守ってしっかりと問題を読み解かなくてはならない。
「前件否定」、「後件肯定」は誰もが陥りやすいミスなのである。
ということになりますね。
ということになりますね。
モーダスポネンスを用いてウェイソン選択課題を考えると、
「片方にローマ字の母音が書かれていれば裏面の数字は偶数である」
↓
「片面にローマ字の母音が書いてある」
↓
よって「裏面の数字は偶数」でなくてはならない。
↓
Aのカードを確認する必要がある。
モーダストレンスを用いてウェイソン選択課題を考えると
「片方にローマ字の母音が書かれていれば裏面の数字は偶数である」
↓
「裏面(片面)に書いてある数字が偶数」ではない
↓
よって「その裏面にはローマ字の母音が書いてあってはならない」
↓
5のカードを確認する必要がある。
という流れになるわけです。
わざわざこのような面倒な考え方をしなくとも、
「片方にローマ字の母音が書かれていれば裏面の数字は偶数である」
を
「片方の数字が偶数でない場合、裏面のローマ字は母音であってはならない」
(動画内だと3:10辺り)
とすぐに言い換えることができればいいのですが、なかなかどうして難しいものです。
論理学の分野で言うところの「対偶」という関係性ですね。
課題素材効果
さて、二つ目のウェイソン選択課題。
切手を使った問題。
以下に使用したスライドを提示する。
思考の内容は全く同じであるにもかかわらず、社会生活(日常生活)の一部の事柄に置き換えて出題することで、
推論の誤りが低下することを示したものです。
(動画内で文献については触れていますので省略します、☆2です。)
この効果のことを「課題素材効果」といいます。
具体化すること、現実的な場面を想定することなどにより、推論の難度が低下する。
ということです。
このウェイソンの選択課題(切手編)を確認してようやく原理が理解できたという人もいらっしゃるでしょう。
「そりゃ、50円切手じゃ送れないんだから確認もするさ!!…あっそういうことか!!」
というような具合です。
この場合でも
「手紙に封がしてあったら(送るならば)、80円切手を付けなくてはならない。」
の対偶を考えるわけですから、小難しく言えば
「80円切手がついていなかったら、手紙に封をしてはならない(送れない)。」
という言い換えができるわけですよね。
でもそんな言い換えをしなくたって、たいていの人は(うっかりさんを除いて)
当然のように正解できるでしょう、それが課題素材効果というものなのです。
確証バイアス
さて、今回触れたウェイソン選択課題は、認知心理学、並びに社会心理学などの分野で言われる
認知バイアスの一つ「確証バイアス」という思考の偏りを説明するときに用いられる例題なのです。
そもそも、確証バイアスというのは
「仮説を証明する際に、内容を支持する情報だけ集め、反証する情報から目をそらしがちである」
またその結果として
「稀にしか起こりえない事象が起こる確率を過大評価してしまいがち」
というような認知バイアス(バイアス=偏り)なのです。
例えばこの確証バイアスは、研究分野でも政治でも、あるいはSNSでもよく見られます。
Twitter等を例にしますと、
・自分に都合のいい情報を流すアカウントをフォローする。
・都合の悪い情報を流すアカウントはブロックする。
その結果、
・自分にとって都合のいい情報だけ入ってくる
・TLでは都合のいい情報が流れるし、都合の悪い情報を流すユーザーが晒されて叩かれている。
よって
・自分(や周りの仲間たち)の考えは絶対に正しく、いわゆる常識のほうが間違っている。
・自分は陰謀(常識)から目を覚ますことができた偉大なる人間だ。
・陰謀(常識)から目を覚まさせることが私の使命であり、それは素晴らしいことだ。
というような勘違いをしてしまう、これが確証バイアス的な思考です。
これによってもたらされる更なる影響が「エコーチェンバー現象」です。
恐らく次回以降のネタにもしますので詳しくは触れませんが、
「閉鎖空間におけるコミュニケーションにより、特定の信念が強化されるような状況」を指します。
自分と同じようなことを発言するユーザーばかり目につき、自分に気に食わない発言は見当たらない。
その結果、自分が考えている思想があたかも常識のように思えてしまう効果の事です。
トンデモ療法や、トンデモ健康グッズ、トンデモ陰謀論者などが最たる例ですね。
(トンデモってつけると何となくわかりやすいかな、という安易な考え)
さて、話が少々本筋から逸れましたが、
「今の上記の話は、お前がそう思ってるだけじゃねーの?」
と言われるわけですよね、当人たちからは。
「俺は俺の意思で活動してるし、そんな[思考の偏り]?なんてのもねーからwww」
こういわれるのが関の山です。
そこで、ウェイソンの選択課題が用いられるんですね。
ウェイソン選択課題に見る思考の偏り
今回用いたスライドでは
[A] [K] [4] [5]
の四枚のカードを用いました、提示内容は
「片方にローマ字の母音が書かれていれば裏面の数字は偶数である」
ですね。
今回動画視聴後なので、タネがわかってしまっている以上簡単に思えるかもしれませんが
ウェイソンによれば「ヒント無し」「カードの裏を見れない」状況(動画の最初とほぼ同条件)で
正答率は約5.5%であったことが報告されています(Wason, 1977). 。
ちなみに、「カードの裏を見た」状況で正答した人が約25%
「カードの裏を見た」「ヒントあり」の状況で正答した人が約33%
最後まで正答できなかった人たちが約36%、となります(実験参加者は合計36人)。
最初に何もヒント無しで正答した人は2名です、難しそうですね。
ウェイソン選択課題における陥りやすい確証バイアスは以下の通り
「[A]の裏は確実に偶数だろう」(正答)
「[K]は母音じゃないから関係ないだろう」(正答)
「[4]は偶数だから裏は母音だろう」(誤答)
「[5]は奇数だから関係ないだろう」(誤答)
自分の考えを支持する内容ばかりですね、「〇〇は××であろう」、という形。
なので、多くの人が[A] [4]あるいは[A]を確認すればいい。
と誤った回答をしてしまうのです。
反証する情報である、「〇〇は●●であってはならないだろう」、という形
「[5]が奇数だから、裏が偶数であってはならないだろう」
には気づきにくい、というのがよくわかりますね。
あとがき
さて、ウェイソン選択課題における解説は以上となります。
久しぶりに心理学関連のお話をがっつりしたので、少々満たされました。
ニコニコのブロマガでやるべきか少し迷ったのですが、まぁ、せっかくこちらのブログを開設したので
しばらくはこちらでやっていこうと考えています。
ブロマガはブロマガで楽曲紹介みたいなのをやってますしね。
動画後半に出てくるコイントス問題に関してはまた次回以降のブログで更新したいと思います。
ここで紹介すると多分記事がすごく長くなっちゃうので…。
所謂「ギャンブラーの誤謬(ごびゅう)」というやつですね。
こちらも、若干分かりにくい内容になってしまっているような気がしますので、
しっかりと、がっつりと解説をしていく予定をしています。
さて、ウェイソン選択課題に関して、しっかりとご理解いただけたでしょうか?
動画内だと高速で進行してしまうため、「わかりにくい」と思われた方もいらっしゃることでしょう。
ここで紹介すると多分記事がすごく長くなっちゃうので…。
所謂「ギャンブラーの誤謬(ごびゅう)」というやつですね。
こちらも、若干分かりにくい内容になってしまっているような気がしますので、
しっかりと、がっつりと解説をしていく予定をしています。
さて、ウェイソン選択課題に関して、しっかりとご理解いただけたでしょうか?
動画内だと高速で進行してしまうため、「わかりにくい」と思われた方もいらっしゃることでしょう。
もし、この文章を読んでも分からない場合は、実際にカードを用意してやってみるといいと思います。
するとそのうちに、「あー、そういうことか」とわかる瞬間が来るように思います。
あの動画で最も述べたかったことの一つに、コイントス問題を提示したときの
「わざわざ、こんな問題を出してくるんだろうから普通とは違う説き方があるのでは?」
と疑う姿勢を持ってほしい、というものがあります。
例として提示するとすれば「ガウス計算」ですね。
ご存じの方も多いと思いますが、これはガウスが小学生の時に解いたといわれているものです。
1から100までの数字をすべて足したら、答えはいくつ?
尚、1分以内に答えなさい。
ここで、この問題を見たときに、
・時間をかければ解けそうな問題である
・しかしながら、「わざわざ」1分と時間制限がある
=もしかして、別の解き方があるのでは…?
という考え方をしてほしいというわけです。
ガウス計算問題の解き方は、
1+2+3+4+5+6+…99+100ということは足し算の順番はどうでもいいわけですね。
では(1+100)+(2+99)+(3+98)+…(49+52)+(50+51)でもいいわけです。
なので101が50個ありますので、5050が正解となります。
解答に至らなかった方でも、
1から100…うーん…ええと…
制限時間厳しすぎでしょ…ってことは「何か解き方がある」のでは…?
1から100だと「50が100個あるようなもん」だよな?…ええい
5000!!
という考え方は、十分評価に値する思考法です。
解くことは叶いませんでしたが、気づければ解けたのです。
先ほどの
『(一分以内って言ってるし)「何か解き方がある」のでは?』
という考え方を「メタ思考」といいます。
「1から100までなんて天才じゃないし1分以内で足せっこないよー!!!!」
という状況と、
「これって、考え方を変えたら、意外に簡単に答えにたどり着けるのでは?」
という状況では、まるで違ってくると思います。
それがその1で述べられた、論理的思考という考え方なんですね。
尚どこかでも触れたかと思いますが、
十全文博 著、紺野比奈子 画の「妹のジンテーゼ」という本の1巻にも詳しく掲載されています。
全3巻なので論理的思考を学んだりするのにも買ったほうがいいと思います。
私の愛読書です。
あのドラッガーの参考書的な「もしドラ」の作者、岩崎夏海さんの別名義作品になります。
ちなみに作画は数年前亡くなられてしまいましたが、クラシカルアートポップという音楽ジャンルを開拓した
アーティスト「love solfege」のヴォーカリスト、鮎さんの別名義となっております。
間違いなく皆さん買ったほうがいいと思いますね、ええ、私はアニメ化を待ち望んでいますよ。
(唐突なダイレクトマーケティング)
さて、今回はここまでにしておきます。
Johnson-Laird, P. N. & Wason, P. C. (1977). Thinking: Readings in Cognitive Science. Cambridge University Press, 114-128.
するとそのうちに、「あー、そういうことか」とわかる瞬間が来るように思います。
あの動画で最も述べたかったことの一つに、コイントス問題を提示したときの
「わざわざ、こんな問題を出してくるんだろうから普通とは違う説き方があるのでは?」
と疑う姿勢を持ってほしい、というものがあります。
例として提示するとすれば「ガウス計算」ですね。
ご存じの方も多いと思いますが、これはガウスが小学生の時に解いたといわれているものです。
1から100までの数字をすべて足したら、答えはいくつ?
尚、1分以内に答えなさい。
ここで、この問題を見たときに、
・時間をかければ解けそうな問題である
・しかしながら、「わざわざ」1分と時間制限がある
=もしかして、別の解き方があるのでは…?
という考え方をしてほしいというわけです。
ガウス計算問題の解き方は、
1+2+3+4+5+6+…99+100ということは足し算の順番はどうでもいいわけですね。
では(1+100)+(2+99)+(3+98)+…(49+52)+(50+51)でもいいわけです。
なので101が50個ありますので、5050が正解となります。
解答に至らなかった方でも、
1から100…うーん…ええと…
制限時間厳しすぎでしょ…ってことは「何か解き方がある」のでは…?
1から100だと「50が100個あるようなもん」だよな?…ええい
5000!!
という考え方は、十分評価に値する思考法です。
解くことは叶いませんでしたが、気づければ解けたのです。
先ほどの
『(一分以内って言ってるし)「何か解き方がある」のでは?』
という考え方を「メタ思考」といいます。
「1から100までなんて天才じゃないし1分以内で足せっこないよー!!!!」
という状況と、
「これって、考え方を変えたら、意外に簡単に答えにたどり着けるのでは?」
という状況では、まるで違ってくると思います。
それがその1で述べられた、論理的思考という考え方なんですね。
尚どこかでも触れたかと思いますが、
十全文博 著、紺野比奈子 画の「妹のジンテーゼ」という本の1巻にも詳しく掲載されています。
全3巻なので論理的思考を学んだりするのにも買ったほうがいいと思います。
私の愛読書です。
あのドラッガーの参考書的な「もしドラ」の作者、岩崎夏海さんの別名義作品になります。
ちなみに作画は数年前亡くなられてしまいましたが、クラシカルアートポップという音楽ジャンルを開拓した
アーティスト「love solfege」のヴォーカリスト、鮎さんの別名義となっております。
間違いなく皆さん買ったほうがいいと思いますね、ええ、私はアニメ化を待ち望んでいますよ。
(唐突なダイレクトマーケティング)
さて、今回はここまでにしておきます。
引用文献
Johnson-Laird, P. N. & Wason, P. C. (1977). Thinking: Readings in Cognitive Science. Cambridge University Press, 114-128.
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