「心理学」、と一言で言われると何を想像されるでしょうか?
心理テスト?
メンタリズム?
暗示?
何でもいいです。
あなたがお持ちの心理学関連(とされる)書籍が「信頼に足るか足らないか」
10秒で見分ける方法をお教えしましょう。
方法
勿体ぶる必要性もないのでもう書きます。
「引用文献の数」
です。
引用文献の量と、その書籍への信頼度は「基本的に」比例します。
引用文献があるということは、「何らかの実験で結果がデータとして出ている」こと。
であり
引用文献がないということは、「根拠のない、自分自身の考察に過ぎない」こと。
です。
根拠がありそれを述べているのと、根拠のないもの。と言い換えることもできます。
Wikiとかでも[要出典]なんて書いてありますよね。
あれは、「その文に対する根拠を示してください」という意味なのです。
言い換えれば「あなたが勝手に言ってるだけではないですか?」とも言えます。
当然大学生の卒論レベルでも言われる内容なので(私も言われてました)
書籍、学会論文などでは言ってしまえば「常識中の常識」です。
ちなみに私の卒業論文の引用文献は11件です、英語論文はうち4件。
認知心理学分野の中では少ないほうですね、多分。
※注意
引用文献が多ければいい、少なければ悪いという単純なものではありません。
記載する文化のない分野の方もなぜかいます。
少なかったとしても、もちろんしっかりとした根拠を持って語っている内容の本はありますし、
逆に嘘ばかり書いてある本を引用しまくれば引用文献10000件も夢ではありません。
よってこの文章は、特定の個人や団体などを蔑んだり、貶めたりといった内容でないことは先に宣言させていただきます。
あくまで今回紹介した書籍は例であり、その書籍の妥当性、整合性、信憑性を保証するものではありません。
引用しているものは書籍(教科書類以外)ではなく論文のほうがいいですね。
書籍であれば私がよく見かけるのは
「ナカニシヤ出版」、「サイエンス社」、「北大路書房」あたりでしょうか?
心理学界隈では定番の教科書出版社だと思います。
論文だと、ピンからキリまでありますが、
「心理学研究(日本心理学会)」「認知心理学研究(日本認知心理学会)」とかの論文が当然ですが、いいですね。
「社会学」の論文とかだと、若干怪しいものもあります。
(社会学が悪いという意味ではなく、引用される内容がおかしい時がある。)
あと、紀要論文も一先ず避けましょう。
大学教授であれば、その大学の名義で審査なしに(全てではないですが)発表できる論文です。
信憑性に欠けるということで卒業論文などですら引用として使えない大学もあります。
(私も確かダメでした。)
実践
実際にいくつかの本を見てみましょう。
コンパクト新心理学ライブラリ2 学習の心理 行動のメカニズムを探る
著者:実森正子、中島定
発行:サイエンス社
という本。
私はこの本は教科書として使ってないのですが手元にあるので。
ライブラリ15の「心理学史」、16の「実験心理学」は教科書でした。
教科書って言っちゃってますけど、大学だと参考書っていうんですかね?
ともあれ、いつの間にか第2版が出てましたか…さすがに買いませんけど…←
千葉大学 文学部の名誉教授と関西学院大学 文学部の教授です。
(心理学は人文学部や文学部→心理学科なので文学部で正しい)
教科書などにも使われる本ですが、はしがき から 索引の終わり まで206ページ
引用文献の数は141件。
さて、一方
しぐさを見れば心の9割がわかる!
著者:渋谷昌三
発行:三笠書房
という本。
著者は目白大学 大学院の元心理学研究科の教授です。
「今すぐ使える心理学」と銘打ってあります、期待しちゃいますね。
王様文庫というカテゴリの文庫本、はじめに から参考文献 まで188ページ
引用文献の数は1件。
どちらも心理学では教授クラスの著者ですが、この差は何でしょうか?
何度も断っておきますが、著者の渋谷さんを悪く言うための記事じゃないですからね。
教授になってるっていうことはそれなりのことをしてきてる方ですし、なにより
引用文献が少ない=内容が間違っている、嘘つきだ!!
なんて話は前述のとおりしていません、誤解などなきようお願いします。
(選定の理由は人、実績ではなく、あくまで「心理学関連書籍」、「引用文献が少ない」の二点だけです。
例として出しているだけです。)
一冊目の文献がたまたま多かっただけかもしれないので
もう一冊
不思議現象 なぜ信じるのか こころの化学入門
著者:菊池聡、谷口 高士、宮元 博章
発行:北大路書房
という本。
これはいわゆる参考書として実際に使っていましたね。
わざわざ胡散臭い名前の本から(失礼)選びました、序章 から あとがき まで275ページ。
コラムの引用文献も含め引用文献の数は262件(うちコラムで86件)。
さて、私が何を言いたいのか、わかりましたか?
余談
渋谷昌三という方は先ほど紹介した書籍の他に「怖いくらい当たる「心理テスト」」なる本を出版されています。
読んだことはありません、引用文献の数も知りませんし、内容も分かりません。
ところで、今も出てきましたけど、「心理テスト」ってよく耳にしますよね。
あなたは森の中にいます、茂みの中から動物が飛び出してきました、次のうちどれ?
Aライオン、Bウサギ…みたいなやつです
あれって何なんでしょうね?と思った人いませんか?
さて、それでは先ほど紹介した「不思議現象 なぜ信じるのか こころの化学入門」から興味深いお話をしましょう。
※注意
一般的に言われる「心理テスト」、
心理学を学んだ人は「心理ゲーム」と訂正させられたかもしれません。
心理学を学んだことのない方へ、
下で語られている心理ゲームとは、心理テストと同じものです。
どちらかが素人が考えたもので、どちらかがプロの考えたものとかではないです。
では、本を開きましょう。
読んでいくと124ページ
心理ゲーム(や夢占いなど)の第一の特徴は、比喩的な場面の設定と固定的なシンボルの当てはめという点にあります。と述べられて、最後にこう続きます
心理ゲームの第二の特徴は実証研究による妥当性の検証などとは全く無縁だということです。簡潔にまとめると、「心理テスト(心理ゲーム)は根拠のないでたらめだよ。」ということです。
(本に書いてある内容ですからね?私に文句言わないでくださいね。)
これに対して心理テストを信じている方は
「妥当性の検証などとは無縁とのことですが、根拠は?」
と言い出すかもしれません。
回答は
「心理テストの内容に、根拠となる研究(引用文献)がないため妥当性があるかの確認が取れない。
論文や書籍などの妥当性が提示できるものがあればお願いします。」
となります。
簡単に言えば「その心理テストの結果が正しいってのは何故言えるのですか?」ですね。
だから心理学を専門にやってる人たちは「ゲーム(遊び)」と呼ぶのです。
血液型診断とか、星座占いとか(昔は胆汁で同じようなことをしていた)にも同じことが言えます。
(血液型診断は妥当性がないことを証明する実証研究(バーナム効果の件でお話しします)を見たことがあります。)
余談の余談
ロールシャッハテストとかバウムテスト、聞いたことありますかね?
あと箱庭療法とか、ひっくるめて「投影法」というのですが、「全て根拠がない(よって意味がない)」とする人だっています。
行動心理学(行動分析学という場合が多いですが)も基本的に根拠がないんですね。
会話をしている時に××をしている人は興味が薄れている。
目線が〇〇を向いている時は嘘の可能性が高い。
「ただし根拠はない」(例です、調べてないので知りません、よって伏字にしています。)
というようなことはザラにある学問領域なのです。
ただ、勘違いしてほしくないのは、
「その効果がないので、臨床心理士は嘘つきだ。」
とかいう話ではないということです。
十人十色様々な人がいる中で、「絶対の正解がある」ことはそうそうないです。
カウンセリングや、投影法などによる検査などによって、
「その人その人に合った、最善の処置」を施すのが臨床心理士のお仕事です。
A病院とB病院では全く反対のことを言われた、なーんて聞くこともありますが、そりゃそうです。
自分でも自分のことを100%分かる人などいないのに、
他人のことを読み解く仕事なのですから、間違い(というか別の解釈)は確実にあります。
AかBかって話だったら、そんな病気になる人いませんし、いてもすぐ治ります。
最終的にたどり着くゴール(全快)もおそらくいくつかあるでしょうし、
ルート(全快に至る道のり)も多分たくさんあります。
人間は機械ではないので、〇〇すれば必ず××といった行動をするってことがないです。
なので、極端な話「恋の病」に特効薬は確実に現れないんですね。
そういうとわかりやすいでしょうか?
証明できないというのは、「ほぼ全員に同じ状況下でその内容を当てはめる」ことができないということです。
「短期記憶の容量は7±2(マジカルナンバー7±2)」という実験結果もありますが、
(これもその話題の時に詳細を紹介ます。)
これもほぼ全ての健常者において当てはまる、よって整合性がある。となっているだけなのです。
これは、脳の機能の問題(生まれ持った特徴=先天的)なので、ある程度の特定が可能なんですね。
つまり、「100人中97人くらいはそうです、違う人も3人くらいいます。」みたいな感じ。
数学などと違い生き物相手ではこれが限界です。
どうか、そのことだけはしっかりと覚えてお帰りください。
答えのない学問は(今の技術では)必ず存在するのです。
きちんと勉強もせずに聞きかじりの知識で叩くのは良い判断とは言えません。
エコーチェンバーを防ぐためにも独学(のみ)や特定思想の方への師事は避けましょう。
思考法に関してはまた、別の機会に紹介します。
引用文献
実森 正子・中島定彦 (2000). コンパクト新心理学ライブラリ2 学習の心理 行動のメカニズムを探る サイエンス社
菊池 聡・谷口 高士・宮元 博章(1995) . 不思議現象 なぜ信じるのか こころの化学入門 北大路書房
渋谷 昌三(2008). しぐさを見れば心の9割がわかる! 三笠書房
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